
彼女は、夏祭りの大好きな女の子だった
毎年、彼は欠かさず彼女を『夏祭り』に連れていった
『夏祭り』・・・・さまざま有るけれど、彼女は特に『花火大会』が大好きだった
いつも彼女は無邪気な表情で、打ち上げられる花火を眺めていた・・・
そんな打ち上げられる花火を観る彼女の、無邪気な表情を眺めるのが、彼には最高の時間だった・・・
彼女『綺麗だね』
彼『うん・・・』
彼女の言う『綺麗』の対象と、彼の言う『綺麗』の対象は、全く別のモノだった・・・
夏祭りに連れて行く事により、彼女のキラキラとした表情を眺めるのが、彼にとっては『夏の風物詩』でもあった
最後の打ち上げ花火が終わって、帰る途中、毎回必ずコンビニによって買うモノがあった・・・
[線香花火]
彼女は決まって、花火大会の後には、シンプルだけど、変化を楽しめる花火を買って、家に帰ってから彼と2人で一緒に楽しむのが日課でもあった
彼女『あのね、線香花火の火玉が、最後まで落ちずに消えたら、願い事が叶うんだよ』
彼『え?そんな話聞いたことが無いよ・・・』
彼女『うん!今あたしが考えた事だから、聞いたこと無いのは当たり前だよ♪』
彼『・・・・・』
そんな無邪気な彼女だからこそ、彼は好きだったのかもしれない
しかし、一度も最後まで火の玉が落ちずに、消えるまで続いた事は無かった・・・
そんな毎年の恒例行事の『夏祭り』も、数年が経つにつれて、彼はあまり重要視しなくなっていった・・・
すなわち、夏祭りに行かない事もあった
彼女が毎年、いつも楽しみにしていた夏祭り
浴衣を着て、綿菓子を食べながら、大好きな彼と手を繋いで見る打ち上げ花火・・・
彼女にとって、幸せな時間であったであろう・・・
彼女『ねぇ、今年も花火大会には行かないの?』
彼『仕事が忙しくて、休めないんだよ』
彼女『・・・じゃあ、花火大会に連れてってとは言わないから、せめて家で一緒に線香花火だけでもしたいよ・・・』
彼『悪いけど、夜帰って来てからとか、疲れてるから勘弁してくれ!』
彼女『・・・・・・・』
とある週末の日、彼は休日出勤で会社に居た
その日は、彼女が毎年楽しみにしていた夏祭り(花火大会)がある日だった・・・
彼は少し、後悔の念があった
夏祭りに連れていけなくても、せめて家で2人で、線香花火だけでもしたいと言った時に、二つ返事で承諾してあげなかった事・・・
彼は仕事が終わり、帰りにコンビニで線香花火を買った
せめて、これだけでもしてあげようと言う、彼なりの優しさだった
ちょうど帰りがけ、いつもの夏祭りが終わる時間と重なった
沢山の見物客が帰宅するのに歩いている中、見覚えのある浴衣姿の女の子が居た・・・
彼女と同じ浴衣を着た女の子も居るんだなぁって思いながら、すれ違った瞬間・・・
彼は信じられない光景を見た・・・・・
その浴衣姿の女の子は、紛れもなく彼女だった
さらに隣でニコニコ笑いながら、話し掛けているのは、紛れもなく男だった・・・
男の方は何気に楽しそうだったが、彼女の方は楽しげな表情では無かった・・・・・
しかし、彼はそんな彼女の表情等、目には入らなかった
家に帰ってから、コンビニで線香花火を買ったのを思い出した彼は、その買った沢山の線香花火を、庭先でまとめて火を点けた・・・
地面で歪(いびつ)に迸る(ほとばしる)火花
彼は絶望と後悔、そして憎しみが募った・・・
それからしばらくして、彼女が帰ってきた
やけに焦げ臭い庭先に気付いた彼女は、その臭いの場所を見て、全てを悟った・・・
彼女『ごめんなさい・・・』
彼『いや、もう良いんだよ』
彼女『・・・・・』
彼『俺はお前には相応しい男では無かったんだよ』
彼女『そんな事無いから!』
彼『だったら!なんで今日花火大会に行ってたんだよ!ただそれだけならいい!でもよりによって男と仲良さげに手なんか繋いで!!!』
彼女『違うの!あれは・・・』
彼『言い訳なんか聞きたくねーんだよ!!』
彼女『・・・・・』
彼『今まで俺を騙しやがって!お前は最低な女だ!』
彼女『・・・ひどい・・・』
彼『もうお前とはお別れだ!』
彼女『・・・・・』
彼女の目からは、溢れ出す涙でいっぱいになった
そして、彼と彼女の数年の思い出に幕を閉じた・・・
しかしその後、彼女が夏祭りに行った相手の男は、実は彼女の従兄妹だと言う事がわかった
しかし、もう手遅れだった・・・
今年の夏祭りの日、彼は彼女の居ない時を過ごす事になった
彼女はきっと、新しい彼氏といっしょに夏祭りに行くのだと思う・・・
きっと彼女は、さみしかっただけなのだと思う
忙しくても、せめて線香花火だけでも、彼とニコニコしながら楽しみたかったのだろう。
しかし、そんな小さいながらの最高の幸せな時間は、二度と戻る事は無かった。。。
今年も夏祭り(花火大会)の季節がやって来ました。
あなたは、今年の夏祭りは、誰と一緒に行きますか?
どなたと行くにしても、楽しい夏祭りにしなければいけません。
決して、涙を流さない様に・・・。
涙を流す様な思いをする為の、夏祭りではないのだから。。。