ae9eb399574e0c1d94770d40cd6d1bdd_s



とある場所に、1人の男が居た。


彼には、とても仲の良い『みさき』と言う女の子が居た。


その子は、3歳年下の従兄妹だった。


彼は彼女と、いつも遊んでいた。


家が近所と言う事もあり、どんな時でも、毎日の様に一緒に過ごしていた…





彼女『あのね、あたし夢があるんだ♪』


彼『どんな夢?』


彼女『えへへっ、それはお兄ちゃんにも言えない夢』


彼『なんだよそれ!?俺には教えてくれたっていいだろ?』


彼女『お兄ちゃんだからこそ、余計にそんな事言えないよ…』


彼『言わないなら、もう遊んでやんないからな!』


彼女『・・・・・』





それから数年の歳月が経ち、彼が高校3年、彼女が中学3年の時


彼女はある病気が原因で、長期間入院をする事になった


その頃になると、お互い男女と言う意味合いもあり、彼は彼女とあまり接する事が無くなっていた


故に、彼がその事実を知ったのは、だいぶ時間が経ってからだった…


お互いの親は、彼が大学受験を控えてると言う事もあり、彼には敢えて伏せていたのである。





彼は、彼女を初めてお見舞いに訪れた。


そこで見た光景は、昔毎日一緒に遊んでいた頃の彼女を、見る影もない姿だった・・・


沢山の医療器具、医療装置が付けられた、とても痛々しい姿…





しかし、1つだけかわらないモノがあった



それは、『彼女の無垢な笑顔』だった。






彼女『お兄・・・ちゃん?』


彼『久し振り、なかなか会いに来れなくてごめんな』


彼女『やっぱりお兄ちゃんだ!何年ぶりかなぁ?もう顔も忘れかけてたけど、今日来てくれた時、すぐにお兄ちゃんだってわかったよ♪』


彼『うん・・・体調はどう?』


彼女『うん、あんまり良くないけど・・・今日はお兄ちゃんが来てくれたから、凄く元気が出たよ!』


彼『そっか・・・』


彼女『そう言えば、今年お兄ちゃん大学受験だったよね?どこの大学受けるの?』


彼『〇〇大学だよ。』


彼女『ふーん。』


彼『みさきは、今年高校受験だったよな?どこの高校志望なんだ?』


彼女『うふふ、秘密だよ♪』


彼『なんだよそれ!?俺には聞いておいて、お前は秘密か?』


彼女『お兄ちゃん、女の子にそんな恥ずかしい事、言わせちゃダメなんだぞ!』


彼『・・・・・』




そんな他愛もない会話をしながらも、久々に会う従兄妹の姿に、数年前とは違う、少々色気と魅力を感じながらも、この子は今、重い病気と闘って居ると言う事実に、彼は複雑な心境であった。




それから数週間後、彼女の病状は悪化した・・・


彼が次にお見舞いに訪れた時には、彼女は既にICUに入っていた


そんな中、彼女は彼が来てくれた喜びから、彼に一生懸命に語りかけた・・・




彼女『あのね、あたしが志望してる高校はね・・・〇〇高校なんだ』




彼女が弱々しい声で語った名前は、彼が今在学中の高校だった・・・




彼『でもお前がここに入っても、俺は入れ違いで居なくなった後なんだぞ!』


彼女『いいの・・・お兄ちゃんがどんな高校に行って、どんな高校生ライフをエンジョイしたのか、あたしも知りたいから・・・』


彼『・・・・・』


彼女『あのね、もうお兄ちゃんは忘れてるかもしれないけど・・・凄く昔に、毎日遊んでいた頃有ったよね?』


彼『うん・・・』


彼女『あの時に、あたしの夢・・・まだお兄ちゃんに話してなかったよね?』


彼『結局、あれは何だったんだよ?』


彼女『それはね・・・ゴホッゴホッ・・・』


彼『もう喋らなくていいから!』






彼女はその後、絶対安静の面会謝絶にまで陥った・・・。


そんな中、彼の大学受験の前日を迎えた。


彼女の病状が気になりながらも、ウトウトと眠りについた・・・




彼は夢を見た。


そこには1人の女の子が立っていた。


そう、紛れもない、従兄妹の彼女だった。





彼女『あのね、お兄ちゃんにお願いがあるんだ♪』


彼『なに?』


彼女『もしもあたしに、何か有ったとしても、お兄ちゃんは明日の受験、絶対に頑張ってほしい!』


彼『みさき!お前なに言ってんだよ!!そんな縁起でもない事言うなよ!!』


彼女『・・・そうだね……うん!あたしは大丈夫たから!お兄ちゃんが頑張ってくれたら、あたしも頑張るから♪』


彼『約束だからな!』






彼はふと目が覚めた。


受験当日、少しスッキリしない気持ちも有ったが、彼は受験の事だけに集中した。


そして受験も終わり、帰るときに病院に立ち寄った。


彼女は、約束を守ったのか、いつもより少しだけ元気な姿を見せた。




彼女『お兄ちゃん、今日の受験どうだった?』


彼『結構手応えはあったぞ!』


彼女『そっか♪お兄ちゃんは凄く頭が良いから♪きっと大丈夫だよ!』


彼『ありがとう』


彼女『あのね、お兄ちゃんが頑張ったご褒美と言ったら可笑しいんだけど、あたしの夢・・・今も昔もかわらない想い・・・教えてあげる♪』


彼『・・・・・』


彼女『お兄ちゃん、耳かして?』


彼『あ、うん』


彼女『・・・・・』


彼『・・・・・!?・・』


彼女『えへへっ♪』


彼『みさき・・・お前、今なんて!?』


彼女『二度と言わないからね!あたしだって恥ずかしいんだから!』


彼『・・・・・』








その数ヶ月後、彼の大学受験の合格発表日・・・


彼は見事合格だった。










しかし・・・


その日、彼女は他界した……



半分、いやほとんどと言って良い程、彼がその大学のとある学部に合格する為に、毎日頑張ったのは、他ならぬ彼女の為だったから、彼は愕然とした…














その学部とは『医学部』だった。





しかし、彼女は既に末期ガンに侵されていた。


合格発表日まで、生きていた事すら奇跡だったのだ。


彼女は、彼の勇姿を見る為、合格を見届ける為だけに、その儚い命をつなぎ止めて居たのだった。





それが原因で、彼は抜け殻の様になった。


何の為に頑張ったのか・・・何の為に医者を目指し、医学部に入ったのか・・・


彼は、その目的を失っていた。






ある日、荒れに荒れて、酒を大量に飲み歩いてる最中、彼は意識を失う程にまで泥酔した。




彼は夢を見た・・・


そこは、どこかにある様な『庭』の光景だった。


庭のハズなのだが、そこは枯れた花ばかりの庭だった・・・。


ふと遠くの方を見ると、そこには1人の女の子が、小さなジョーロを持って座り込んでいた。


その場所に近付くと、その女の子の目の前には、一輪だけキラキラとして、懸命に生きようとする『小さな花』が咲いていた。


そう、彼女は一生懸命になって、その最後の一輪の花を、枯らさない様に水を与えていた。




彼『なんでこの庭には、この一輪の花以外はみんな枯れてるんだ?』


女の子『それはね、このお庭は[心の庭]だからだよ』


彼『心の庭?』


ふと不思議に思った彼は、その女の子を見て驚いた・・・。








女の子『ここはね、お兄ちゃんの心の中にあるお庭なの!』









女の子は、先日他界した、あの従兄妹だった……





彼『お前、こんなところで何やってんだよ・・・』


彼女『あたし?あたしはね、お兄ちゃんの心が、全部枯れてしまわない様に、最後のお花に水を与え続けてるの』


彼『・・・・・』


彼女『お兄ちゃん、ごめんね。あたしが最後にあんな事言ったから・・・余計に心が枯れてしまったんだよね・・・』







彼女が、彼に耳打ちして伝えた言葉・・・










『ずっとお兄ちゃんと一緒に居たいから、あたしはお兄ちゃんのお嫁さんになる事が夢なんだよ♪』











彼女『ごめんね。』


彼『違うんだよ!お前は何も悪く無いじゃないか!悪いのは、お前を失った絶望感で、荒んだ事によっていまだにお前に苦しい想いをさせてる俺の方だよ!』


彼女『あのね、お兄ちゃんには、もっともっとキラキラしてほしいの。この一輪の小さなお花の様に、キラキラしてほしいの』


彼『・・・・・』


彼女『そして将来、お兄ちゃんがお医者さんになったら、沢山苦しんでる人、病気と闘ってる人達を、笑顔にしてあげて欲しいの!そんな人達の[心の庭]に、沢山綺麗なお花を咲かせてあげて欲しいの!』


彼『・・・わかったよ。みさきの願い、気持ちを大切に、これからは強く生きていくから!』


彼女『良かった・・・ありがとうねお兄ちゃん。あたし、お兄ちゃんを好きになって、愛する事が出来て、とても幸せだったよ!』


彼『うん・・・』


彼女『バイバイ。。お兄ちゃん。。。』








彼女は、小さな光となって消えて行った。


それと同時に、彼の[心の庭]には、沢山の花が咲き誇った。


それは、彼が彼女と約束した事を果たすべく、心の想いからだった。






その10年後、彼が配属された医療機関では、彼の周りの難病と闘っている患者は、何故か皆が[笑顔]に満ち溢れていた。


彼はきっと、難病と闘っている患者の[心の庭]に、沢山の花を咲かせていたに違いない。










彼女『ありがとう、お兄ちゃん。ずっとずっと大好きだったよ・・・』