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とあるところに、1人の男が居た


そして彼と同じ職場に、同期で入社した1人の女が居た。


お互いに部署が違った為、ただ『同期』で入社したと言うだけの関係だった。


彼は、どちらかと言えば『ちょっと不真面目』な人物だった


それとは相対的に彼女は『真面目』で、常に周囲から一目置かれる存在だった。




ある時、ひょんな事で他部署の社員と交流会をする事になった


その時、彼は彼女と顔合わせする事になった


それは、お互い『入社式』以来の出来事だった


彼女は、真面目過ぎる性格の影響か、仕事上では周りから期待されていたが、仕事以外のプライベートでは『つまらない女』と言うイメージが強かった・・・


交流会でも、彼女の周りには誰も居なかった。


そこに、同期入社の彼が話しかけてきた。



彼『どうしたの?』


彼女『何が?』


彼『今日は他部署との交流会なのに、キミだけ1人で居るから』


彼女『気にしなくても大丈夫だから』


彼『・・・・・』


彼女『・・・・・』


彼『じゃあさ、2人で抜け出しちゃおうか?』


彼女『そんな事したら、後から問題になるでしょ!』


彼『いいからいいから』



彼女は、常日頃の多大なストレスからか、その時ばかりは何故か彼の言葉に共感した部分が有った。


2人は交流会の会場を抜け出して、ドライブに行く事になった


彼『さて、どこに行こうかなぁ』


彼女『勢いで抜け出して来ちゃったけど、大丈夫かなぁ・・・』


彼『いざとなったら、オレが全部責任取るから大丈夫』


彼女『・・・・・』


彼『それよりさ、夜景が綺麗な場所が有るから、付き合ってくれないかなぁ?』


彼女『夜景か・・・もうしばらく観てないなぁ・・・』


彼『キミ、有名だからなぁ・・・』


彼女『何が有名なの?』


彼『うん、社内でも一番の出世頭、そして休日にもかかわらず、出社して仕事してるって』


彼女『わたしは、仕事が好きなだけ』


彼『そっか。オレは遊びが好き』


彼女『・・・ふざけてるの?』


彼『本気なんだけど・・・』


彼女『・・・クスッ』


彼『おっ!笑った!笑った顔初めて見たよ』


彼女『そう?』


彼『うん、社内でも何度かすれ違った事が有ったけど、いつも難しい顔してたからさ』


彼女『・・・そうね、最近笑ってなかったな・・・』


彼『・・・そっか・・・』


彼女『・・・・・』



しばらく、2人の間に沈黙が続いた


そうこうしているうちに、向かっている夜景の綺麗な場所に着いた。


彼女『なにこれ・・・凄く綺麗・・・』


彼『ここはね、とっておきの場所なんだ』


彼女『そうなんだ・・・』


彼『多分、他には誰も知らない場所だと思う』


彼女『どうやって見付けたの?』


彼『毎週末、いろいろ1人でドライブしながら見付けた』


彼女『さすが遊び人・・・』


彼『最高の誉め言葉だよ』


彼女『・・・・・クスッ』


彼『やっぱり、笑った顔は可愛いね』


彼女『・・・・・』


彼『・・・・・?』


彼女『わたしは、つまらない女だよ………』


彼『そうかなぁ?』


彼女『容姿もパッとしないし、遊びも何も知らない・・・』


彼『でも笑った時の顔は、凄く可愛いと思うんだけどな』


彼女『そんな事言われたの、初めてだよ・・・』


彼『それは、今まで周りの奴等が気付かなかっただけだと思う』


彼女『あなたと話してると、いろいろな問題が、何だかどうでも良い事に思えてくる』


彼『そう?』


彼女『でも、やっぱりわたしは、つまらない女・・・』


彼『つまらなくないさ!現にこうやって交流会抜け出して、オレと今夜景観てるんだし』


彼女『・・・あっ・・・』


彼『・・・プッ・・・』


彼女『・・・クスッ・・・』



これをキッカケに、2人はよく社外で交流する様になった。

そしていつしか、真逆の性格、お互い持っていない魅力に惹かれ、付き合う様になった。

そして、数年の月日が経ち、彼女は仕事以外のプライベートも充実していった。

それと同時に、彼も彼女の影響で仕事の出来る男になっていった。



そんな中、ある日彼は上司から海外赴任の話を持ちかけられた・・・

それは半年間だけ、海外の発展途上国に赴任して、技術者として現地の指揮を執ると言う内容だった。


半年間と言えど、その間彼女と離ればなれになる事になる・・・

なので、彼女の承諾が必要だった。




彼女『海外赴任!?』

彼『うん』

彼女『どうしようと考えてるの?』

彼『受けようと思ってる』

彼女『でも・・・』

彼『大丈夫だって!たった半年間だし、アッという間だよ』

彼女『でも、危なくない?』

彼『でも帰ってきた時には、管理職のポストが待ってる。出世するチャンスなんだ』

彼女『・・・うん・・』



彼女は、本当は行って欲しくなかった

いくら出世の為だとしても、赴任先はどんな危険が待っているか分からない場所

でも、彼の熱意に、彼女は承諾する事しか出来なかった・・・



それから数ヶ月、彼からはちょくちょく手紙が来た

彼女がさみしい思いをさせない為に、忙しい中で彼の唯一の配慮だった。

彼女も、さみしい気持ちでいっぱいだったが、そんな彼の優しさに、とても幸せを感じていた。





しかし・・・・・





いよいよ帰国すると言う3日前と言う日に、事件が起こった。

元々、赴任先の国は、国内情勢が不安定だった為、革命派によるクーデターが起きた・・・

あらゆる公共機関が、革命派に制圧された

そして、国民だけでなく、外国人もクーデターを起こした革命軍に多数拘束された・・・



状況は、最悪を意味した・・・



彼の消息も、安否も不明になった

国は混乱状態に陥り、クーデターを起こした革命軍への掃討作戦として、最終手段がとられた……

国は国連に要請・・・そして、国連軍による空爆が行われた。

日本政府も、『渡航禁止命令』を発動した・・・

邦人の安否についても、全く情報が伝わらない程、悲惨な状態だった。





それから2日後、革命軍は掃討され、内戦は終息した。








しかしその後、彼が帰国する事は無かった・・・



彼女は、言葉を失った

半年前、強引にでも彼を引き止めておけば良かったと、後悔した・・・

出世よりも、小さくても2人の幸せを築けたら良いと、気持ちを伝えれば良かったと……




その日、無情にも彼が送った最後の手紙が届いた







『〇〇、元気にしてる?

オレはそこそこ元気でやってるよ♪

あと数日で帰国するよ♪

笑顔が最高に可愛い〇〇に、早く会いたいなぁ!

今まで、さみしい思いさせてごめんな



帰ったら結婚しよう!

そして、2人で幸せな家庭を築こうね!


〇〇、世界一愛してるよ』







しかし、彼女を愛してくれる彼は、もう居ない

ただ、そんな彼からの手紙だけが、彼女の元に残された。。。




※本当の幸せとは、出世よりも、お金よりも、何より『愛する人』のそばに居る事

そして相手の為に、命の危険をおかす事を、極力避ける事

人は、生きている事が、一番相手を幸せに出来る事だと思う。