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ある『夏』の日のお話


彼は田舎に住む、心優しい男


彼女は、都会育ちの女



2人が知り合った接点は、不思議なくらい、相対的なモノだった




2人は、元々接点のない存在だった


彼女が失恋し、その傷心旅行をしていた時に、彼と出会ったのがキッカケだった


彼女が、夕暮れの海辺を散歩していた時


広大な海、そして茜色に染まる景色


そんな光景に、過去の悲しみを重ね合わせて、涙していた時






彼『綺麗でしょ?この景色』


彼女『・・・?』


彼『この広い海を観ていると、自分がどれだけちっぽけな人間かって言うのを、実感する時があるんだ』


彼女『・・・・・』


彼『君は観光でこの街に来たのかい?』


彼女『はい』


彼『そっか・・・ありがとう』


彼は、それだけ言うと、何処かへと去っていった







次の日、彼女が観光スポットを何となくぶらついていた時、昨日海で声をかけてきた『彼』が居た


彼は、とあるお土産屋の店員をしていた


彼の周りには、いつも沢山の人が集まっていた


それはひとえに、彼の屈託のない『笑顔』からなるモノ・・・






彼『あっ、昨日の女の子じゃん!』






彼がそう言うと、彼の周りの人が一斉に彼女の方に振り向いた






彼女『・・・えっ!?・・・あっ!・・・・』






彼女は堪らずに、その場から逃げる様に去った


昨日声をかけてきた彼は、街でも人気のある存在だった


そんな彼が、なんの取り柄もない自分に声をかけてきた事に、彼女自身が不思議に思ったと同時に、からかわれていたと言う疑念も生まれた





そして夕方・・・


彼女はやはり、昨日と同じ場所に居た


夕暮れの海辺・・・やはり綺麗だけど、とても切ない光景・・・


失恋した事を思い出しては、また涙を流した・・・






彼『今日もここに来てたんだね』


彼女『・・・!』


彼『さっきはごめんね・・・驚かせてしまって』


彼女『いえ、別に気にしてないですから』


彼『何処から来たか、まだ聞いてなかったよね?』


彼女『そんな事、あなたにイチイチ言わなければいけないんですか?』


彼『・・・だね。ごめん』


彼女『街では凄く人気のある人だったんですね!ビックリしました』


彼『人気がある訳じゃないよ・・・ただ、どんな事が有っても、笑顔を絶やさない様にしてるだけ』


彼女『わたしとは、全く真逆の存在ですね・・・わたしは・・・何の取り柄もない女・・・』


彼『そうかなぁ?少なくとも、美人でミステリアスなところが、とても魅力的だと思うんだけど』


彼女『お世辞はやめてください!それにわたしは、失恋して、その気持ちをまぎらわせる為に、旅行に来たような惨めな女なんですよ!』


彼『それでも、その旅行にこの街・・・俺が生まれ育った街を選んでくれた事、凄く嬉しいんだけどな』


彼女『・・・・・』


彼『この場所はね、いつも辛い事があった時に来る場所なんだ・・・』


彼女『そう・・だったんですか・・・』


彼『悩み苦しんだとしても、この広い海を観ていると、自分の悩みなんか、ちっぽけなモノだと思えて来るんだ』


彼女『悩みなんか有るんですか?』


彼『そりゃ沢山あるよ!特に客商売してると、いろんな事が有るよ』


彼女『・・・ごめんなさい。』


彼『構わないよ、それに君が今、傷付いている事に比べたら、俺の悩みなんて大した事では無いと思うからさ(笑)』


彼女『・・・・・』


彼『ん?どした??なんか変な事言ってしまったかな・・・』


彼女『あたしと居ても、つまらないですよね?』


彼『・・・?』


彼女『こんな暗くて、つまらない女だから、わたしはいつも捨てられるんですよ』


彼『人にはさ、いろいろな個性がある。そしていろいろな悩み、苦しみが有ると思う』


彼女『・・・・・』


彼『でもさ、人は立ち止まってしまったらダメなんだよ。どれだけ辛くても、苦しくても、悲しくても・・・人は歩き続けなければいけない』


彼女『わたしは、存在する価値が有るのでしょうか?』


彼『存在する価値の無い人間なんて、この世には居ない・・・俺はそう思うよ!』


彼女『・・・ありがとう・・・』


彼『また・・・この街に遊びに来てくれる?』


彼女『うん、わたし、この街が好きになりそう。そしてこの場所、この景色がお気に入りになったから!』


彼『そっか・・・ありがとう』


彼女『また、あなたと会うことが出来るかな?』


彼『俺は、いつもここに来れば居るから』


彼女『・・・うん。』


彼『次に来る時は、花火大会が有るときにおいで!』


彼女『花火大会?』


彼『うん。ちっぽけな街だから、都会みたいな凄いのじゃないけど、ここから見る打ち上げ花火は、最高に綺麗だから』


彼女『うん!わたし、来年も必ずこの街に旅行に来るから!だからまた・・・わたしと会ってくれますか?』


彼『もちろん!美人さんは大歓迎だよ!』


彼女『ふふっ』


彼『初めて笑ったね!お澄ましさんは美人だけど、笑った顔は可愛いよね!』


彼女『・・・!?』


彼『来年も、ここで待ってる』


彼女『うん!・・・わたし、この街に来て本当によかった!』


彼『ありがとう』












彼女と彼の、ほのかな・・・


小さな恋の物語の始まりかもしれない


それは、茜色に染まる、海辺の景色にも負けない、綺麗な光景にみえた。